第14次推理小説ブーム

目下、私の人生において14回目ぐらいの推理小説ブームが到来しています。桐野夏生『柔らかな頬』を読みました。本当の推理小説じゃないけど。柔らかな頬 下 (文春文庫)
この人の小説は『アウト』と『グロテスク』を読んだことがあるのですが、『アウト』は文句なしにおもしろかったです。それで『グロテスク』を読んでみたのですが、個人的にはいまいち。ですが、『柔らかな頬』は紹介文に「最高傑作」と書いてあったので、「そこまでいうなら」と思い読んでみました。
で、感想ですが、たしかにけっこうおもしろい。ですが、このおもしろさは純文学的なおもしろさのような気がします。最後まで謎が解けているかどうかは疑問で、むしろ謎が解けないと半ばわかりつつ、謎に執着することで、人生をつなぎとめている姿が中心なわけです。簡単に言えば、ちょっと異常なまでにがんばってる主人公の様子とその心理がメイン。こういう強迫的なまでの執着というのはこの作家の好きなテーマらしく、『アウト』もそうだけれど『グロテスク』では完全に前面に出ていました。個人的には、正直言って、こういうのはあまり好みではない。
個人的にツボにはまったのは、謎の解決が「夢」あるいは「空想」という形で提示されるということですね。しかも、「夢」は一度だけではないので、ちがう人が犯人となる別バージョンがいくつかある。最後の夢が当たりっぽいけど、確証はない。ちょっとちがうけど、芥川龍之介の『藪の中』を思い出しました。
これも文学手法のおもしろさで、なんとなく純文学志向という印象を持ちました。本当は推理小説や犯罪小説のフレームを使わずに、純文学を書きたいんじゃないのかな、とまで思いましたが、どうなんでしょうかね。