本の世界でローションを塗られたい

幸せになるために*1小川洋子博士の愛した数式』と麻耶雄嵩『あいにくの雨で』を読んだ。どちらもなかなか良かった。
博士の愛した数式
心温まる感じ。「博士」とそのお手伝いさんとその息子の話。お手伝いさんが語り手。博士は元大学教授だが、事故のために80分しか記憶が続かない。数字のことを話すのが好きで、教え上手でもある。お手伝いさんは博士と出会ってから、数(学)の美しさに気づく。その息子はただの野球好きだが、博士がやけにその子を気に入る。
数学ネタでまだめずらしいということもあり、普通に楽しく読む。ただ、私は心温まるものを求めていない荒んだ人間であるので、まずまず。


あいにくの雨で (講談社文庫)
こちらは推理小説
この人の作品では、以前に『痾』の感想を書いた気がする。この小説に加えて私は、『翼ある闇』、『夏と冬の奏鳴曲』、『痾』を読んだことがある。一般的な基準でいえば、そこそこのファンだ。
とはいっても、私は彼の作品が「好き!」というほど評価がハッキリしているわけではない。にもかかわらず、彼の作品をちょこちょこと読んで行くのは、「よくわからないけど、変わっている。おもしろいんだか、めちゃくちゃなのか、なんだか微妙だ。よくわかんないけど、ちょっと気になるから、別のも読んでみよう。あ、Book Offで100円で売ってる。」という心理からだ。
『あいにくの雨で』は、これまで読んだ彼の小説よりは、ずいぶん「普通」な推理小説的だった。私はこれぐらいの方が良いと思う。奇抜じゃないけど、おもしろかった。
この人の小説の特徴は、事件を解こうとし、解決する過程で、主人公のアイデンティティが解体されて行くことにあるのだと思う。今回の主人公は高校生三人組だが、一人は精神的にボロボロになり、三人の関係も崩れていく。
ということなので、この人の小説はある種の青春小説として楽しむのが正しい楽しみ方に思える。トリック的なところは、けっこう力技的なところが多くて、よく考えればあらが目立つ。そういうあらを気にさせない文章力も魅力であるのだが。ともかく、麻耶の作品は主人公が壊れて行く様子を楽しめということです。

*1:前回のエントリーを参照